左心耳閉鎖術(LAA Closure: Left Atrial Appendage Closure)

高齢化社会に伴い心房細動患者は増加している。心房細動の脳梗塞予防として抗凝固療法の他、血栓形成がされやすい左心耳を外科的・内科的に閉鎖する左心耳閉鎖術がある。

左心耳とは?読み方は?

左心耳とは、「さしんじ」と読み、左心房の一部に耳たぶのように飛び出た部分のことを言う。右心房にも同様に存在し、右心耳と呼ばれる。肺動脈基部である左心房の前側に突出している。

心房細動患者では、心臓内の血流が淀むことで、左心耳内に血栓ができ、それが脳の血管を詰まらせる脳梗塞や他の臓器への血流を遮断する血栓塞栓症の危険が高い。血液を固まりにくくし血栓の発生を防ぐ抗凝固療法の他、左心耳への血流を遮断することで、血栓の発生を防ぎ脳梗塞などを防ぐ治療が行われる。

非弁膜症性心房細動(NVAF)とは?

リウマチ性弁膜症のような弁膜症に対し、加齢に伴い冠動脈硬化症、高血圧、心不全などに起因するもの。近年ではNVAFが増えてきており、心原性脳塞栓の約半数がNVAFと言われている。

心房細動では、左心房の収縮力がなくなり左心房内に血流がうっ滞することにより、血栓ができやすくなる。加齢、高血圧、糖尿病に伴い全身の動脈硬化が進むと、動脈硬化巣から血液の凝固能を亢進させる組織因子が放出され、左心房内に血栓ができやすくなると考えられている。また、高血圧や糖尿病などでは血管の内皮機能が低下し、血小板が活性化されやすくなるため、血流のうっ滞した左心房内では血栓ができやすくなる。

左心耳閉鎖術の適応は?

心房細動の治療としては、抗凝固療法がスタンダードとされるが、出血リスクが高い、出血による合併症によって抗凝固療法が行えない患者には「左心耳閉鎖術」が検討される。

非弁膜症性心房細動において、血栓の約9割が左心耳で発生すると言われている。この左心耳の開口部を閉鎖する治療が左心耳閉鎖術で、外科的手術と内科的カテーテル治療がある。

カテーテルによるWatchmanデバイス留置

大腿動脈から右心房まで進み、心房中隔を穿刺して左心房へ到達し、左心耳に傘上のデバイスを挿入して閉鎖する。

Watchmanデバイス(ボストン・サイエンティフィック社製)は2012年8月にCEマークを取得しており、2015年3月にはFDA承認を獲得した。

PROTECT-AF試験は、非弁膜症性心房細動患者でCHADS2スコアが1点以上の症例707例を対象とした対ワルファリンのランダム化比較試験で、ワルファリンに対する非劣性が認められた。4年間のフォローアップで、Watchmanデバイスにて治療した群が全死亡を34%、心血管死を60%、出血性脳卒中を85%有意に減少させたことが報告された。
(Holmes DR, et al. Percutaneous closure of the left atrial appendage versus warfarin therapy for prevention of stroke in patients with atrial fibrillation: a randomised non-inferiority trial. Lancet. 2009; 374: 534-42.)

日本人は欧米人に比べて出血性合併症が多い傾向にあるため、期待される治療である。

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