生体吸収性ステント(BVS: Bioregradable/Bioresorbable Vascular Scaffolding)

生体吸収ステントは、BVS: Bioregradable/Bioresorbable Vascular Scaffoldingと呼ばれる。スキャフォールドは仮設構造物を意味する。従来のステントは金属が一般的であったが、ポリ乳酸などの素材でできており、生体内で吸収され消失するステントが開発されている。

生体吸収性ステントの歴史

世界初の生体吸収ステントは、1990年にデューク大学のRichard Stack氏が開発したポリL乳酸(PLLA)製のステントである。イヌの動脈に留置し良い成績が得られたが、その後製品化は進まなかった。

世界で初めて人の冠動脈に留置されたのは、滋賀県立成人病センターの玉井秀男氏が伊垣医療設計社とともに開発したIgaki-Tamaiステントである。このIgaki-Tamaiステントをもとに下肢血管用にRemedyが作られ、欧州で2007にCEマークを取得した。

開発が進んだのがアボットバスキュラー社のエベロリムス溶出生体吸収性ステントABSORBである。従来のステントのように金属を使用せず、生体適合性のポリラクチド(ポリ乳酸)という素材でスキャフォールドが作られているため、最終的に体内で溶けてなくなる構造となっている。従来のステントの金属やポリマーによる炎症反応をなくすことを目的に開発された。スキャフォールドの表面には、内膜増殖を抑制するエベロリムスがコーティングされている。薬剤の溶出期間は約3ヶ月で、スキャフォールド自体は2年ほどで溶けてなくなる。

ABSORBの臨床試験(治験)

第T相試験では30例が登録され、留置から3年間の追跡でステント血栓症および主要心血管イベントは認められなかった。また、IVUS 、OCTによるBVSの消失が確認されている。

第U相試験ではプラットフォームが改善され、9ヶ月後の101例におけるMACE発生率は5.0%であり、ステント血栓症の発生は認められなかった。2年間のフォローアップは44例で心臓死は認められず、MACEの発生は3例(6.8%)、血栓症は認められなかった。

ABSORBU試験では、Xienceとの直接比較で、1年後の成績は総死亡+全ての血行再建術の複合エンドポイントはABSORB群で7.3%、Xience群で9.1%で有意差なし。留置直後の血管径や拡張度はXienceで良好だったが、6か月後の運動負荷試験のST低下による中断率はXienceの方が多かった。6か月後の硝酸薬の服用もXience群で多かった。1年後にはどれも差がなくなった。

ABSORB V試験では2012年12月より米国で約2000例が登録され、冠動脈の1本以上に狭窄が見られるCAD患者に対するAbsorbとXience留置後の1年のTLFを比較。Absorb群が7.8%、Xience群が6.1%(劣性p=0.007)でAbsorbの非劣性が示された。

ステント血栓症の課題

GHOST-EUレジストリーでは、留置後1ヶ月までのステント血栓症が1.5%、6ヶ月までが2.1%と第一世代DESと同じくらい高い結果が示された。OCT、IVUS使用率が10%台と低く、ステントを血管壁にきちんと圧着させるための後拡張も半数にしか行われていなかったため、このような手技上の問題が影響しているのではと考えられている。ABSORB JAPAN試験でも、Absorb群での1年のステント血栓症の発生率1.5%で高率であった。

ステント素材の特性上、拡張が不十分であったりやマルアポジション(malapposition)が起きやすいことがステント血栓症の発生に影響していると考えられている。イメージングデバイスの使用による適切な留置が求められている。

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